SFマガジン2022年8月号収録
春暮 康一「モータルゲーム」

恒星間生命探索プロジェクトが有機的なセルオートマトンを発見した。そのルールは決定論的で、近い将来全ての"セル"が消滅することが計算によって明らかになる。
セルオートマトンを環境から自発した自己複製子と見なせば生命的だが、一方で決定論的にふるまいを計算できる現象は生命とは扱い難い。
オートマトンの自然環境を乱さないために手を触れず"絶滅"するに任せるべきか、それとも"品種改良"を行い長周期のパターンを育めるルールに改変すべきか。
探査チームの出した結論は…

この物語は人間が未知の現象を求めて異星に旅立ち、まさにその目的に叶う現象を発見し、そしてその既存の学問の枠組みで捉えられない物事を人間がどのように扱うかを描いた物語です。
有機的オートマトンが自然発生することは、生命が自然発生したことを考えれば十分にあり得るシナリオであり、そのような準生命体の生命性についてはまさに人工生命分野で議論されているところですね。

決定論的にふるまいが決定できる現象を生命と呼べるだろうか?
それが生命であるのであれば、その現象を電子的にシミュレートしたパターンも生命と呼びうるだろうか?
どのような手段でも生き延び、自らの滅びに抗う存在を生命と呼ぶのではないか?

しかしこの物語の焦点は異星のセルオートマトンではなく、その生命性の議論でもなく、未知の物事に対する人間の想像力と創造性の発露です。
決定論的な系に非決定論的な要素を導入する、という結論は、まさにOpen-Endedな系を目指す人工生命制作のひとつの方向性でもあります。

この物語がどのような結末に至るのかその目で確かめてください。